4ベイNASとMINISFORUMは何台載る? 8U・12Uの現実、最大構成、その先の19インチ沼まで
調査日: 2026年7月10日
本稿は実機レビューではなく、メーカー公式ページ、DeskPi公式CAD、各機器の公称寸法を突き合わせた搭載設計です。ラックや棚の版、ゴム脚、コネクタの形には差があるため、最後の数mmは購入前の実測が必要です。価格・在庫・アフィリエイトリンクは扱いません。
ラックには、妙な力があります。
机の上に無造作に積まれていたルーター、スイッチ、ミニPC、NAS、ACアダプター。それまでは一つずつ買い足した「箱」にすぎなかったものが、ラックへ収めた瞬間に一つの「システム」に見えてきます。短いLANケーブルが役割を持ち、点滅するリンクLEDが鼓動になり、空いている1Uが次の計画を語り始める。
GeeekPiのホームページに載っている8Uと12Uの10インチラックは、その入口として実に危険な製品です。19インチラックほど大げさではなく、机や棚の上に置ける。側板は半透明で、中の機器が見える。持ち手まで付いている。見た目は小さいのに、「自宅のサービスを自分で持つ」という未来を、きちんとラックの形で見せてくれます。
しかし、ロマンだけでNASは載りません。10インチという名前から、幅254mmまで入ると思うと最初の罠に落ちます。奥行200mmの8Uに、奥行223mmのNASは収まりません。それでも棚には載せられる。では、どこからを「載る」と呼ぶのか。
この記事では、GeeekPi掲載の8U/12Uモデルを、詳細図面が公開されているDeskPi RackMate T1/T2として照合し、スモール、ミドル、ラージ、そして算数上の最大構成まで組み立てます。最後は当然、その先に待っている19インチラックの沼まで行きます。
先に結論――4ベイは載る、8ベイは載らない
長い記事なので、最初に答えを置きます。
- 4ベイNASは、主流のSynology、QNAP、UGREENとも横幅は通ります。T1では本体が約20~58mmはみ出し、T2では多くの機種を棚面で支えられます。ただし背面ケーブルまで完全に内側へ収まるとは限りません。
- 8ベイNASは、主流の据え置き型では載りません。Synology DS1825+、QNAP TS-873A、UGREEN DXP8800 Plusはいずれも幅が広く、向きを90度変えてもレールまたは棚を通りません。
- MINISFORUMは、T1ならM2またはUM890 Proが適任です。標準棚へ平置きするなら1台2Uを見込み、NASなしのT1で実用3台、4ベイNAS込みなら原則1台です。
- T2なら、NASなしでM2/UM系を実用3~5台、4ベイNAS込みなら2~3台。AI X1 Pro/MS-01/MS-A2は電源と熱を考えて2~3台が現実的です。
- 家庭ネットワークの本命は、端末側を2.5GbE、NAS・主力PC・ノード間だけ10GbEにする構成です。T2には8ポート2.5GbE+2ポート10GbEの中核が素直に入り、NASを外へ出すネットワーク特化案なら16ポート10GbE級まで狙えます。
- 8ベイNAS、高密度2.5GbE PoE、16/24ポートPoE、高容量UPS、GPUサーバーのどれかが必要になったら、10インチに工作を重ねるより19インチへ進むほうが自然です。
私がいま一台だけ選ぶなら、厳密な省スペースが最優先ならT1、これから4ベイNASと複数ノードを育てるならT2です。迷っている時点で、たぶんT2です。
「10インチ」の正体――使える幅は254mmではない
GeeekPiのページでは、8Uモデルが「GeeekPi 8U 10-Inch Server Cabinet」、12Uモデルが「GeeekPi 12U 10-Inch Server Rack」として紹介されています。詳細な寸法は、対応するDeskPi RackMate T1公式情報と、DeskPiがGitHubで公開しているT1機械図面、T2機械図面で確認できます。
| 項目 | RackMate T1 | RackMate T2 |
|---|---|---|
| ラック高 | 8U | 12U |
| Uとして使える公称高 | 355.6mm | 533.4mm |
| 図面上の外形 W×D×H | 約282.3×200×451.0mm | 約282.3×260×629.8mm |
| 左右レール間の開口 | 約222.25mm | 約222.25mm |
| 純正1U棚の有効幅 | 約214mm | 約214mm |
| 純正1U棚の奥行 | 200mm | 261mm |
| 性格 | 最小の完成形 | NAS・クラスタまで育てる本命 |
T1の底面はほぼA4用紙、取っ手込みの高さは約45cmです。T2も幅は同じ約28cmのまま、奥行26cm、高さ約63cmまで伸びます。T1は卓上機器、T2は小さな家具に近い存在感です。それでも19インチラックと比べれば、家庭へ持ち込みやすい大きさに収まっています。
搭載判定には、三本の物差しが必要です。
一つ目は幅。裸のレール間は約222mmでも、左右に立ち上がりのある純正棚で使える平面は約214mmです。製造公差や棚のリップを考えると、212mm以下を安全圏と見るのが無難です。つまり「10インチラック」は、幅10インチの箱がそのまま入るという意味ではありません。
二つ目は奥行。T1は200mm、T2は260mmです。ただし機器の公称奥行だけを比べてはいけません。RJ45、電源プラグ、USB、SFP+のDACケーブルには、コネクタ本体と曲げ代が要ります。奥行195mmの機器は、200mmのラックへ数学上は入っても、現実には配線できません。
三つ目は高さ。1Uは44.45mmです。高さ47~67mmのミニPCは、薄く見えても1Uには収まらないため、平置きでは2Uを与えます。4ベイNASは筐体だけで約3.7~4U。冷却と脚を考えれば、4.5~5Uを見たほうが安全です。
この三本を使うと、「載る」「収まる」「運用できる」を分けて話せます。
もう一つ、購入時に見落としやすいのがアクセサリーの世代です。T1用1U棚はDP-0031、T2用は奥行の長いDP-0053で、メーカーも相互互換ではないと案内しています。「10インチ用」だけで選ばず、T0/T1/T1 Plus/T2のどれに対応するかまで確認が必要です。
NASを載せる――T1では尻尾が出て、T2で胴体が収まる
4ベイNASは10インチ用ラックマウント機器ではありません。純正棚、できればHeavy Duty棚へ置く「棚置き」です。NASは最下段へ置き、重心を下げます。
代表機の公称寸法を、高さ×幅×奥行にそろえました。
| NAS | 公称 H×W×D | 必要高の目安 | T1 | T2 |
|---|---|---|---|---|
| Synology DS925+ | 166×199×223mm | 4U最小、実用5U | 本体が23mm超過 | 棚残り38mm。配線要確認 |
| QNAP TS-464 | 165×170×226.5mm | 4U最小、実用5U | 本体が26.5mm超過 | 棚残り34.5mm。配線要確認 |
| UGREEN DXP4800 Plus | 約178×178×257mm | 4U超、実用5U | 約57mm超過 | 棚残り約4mm。配線は必ず外へ逃がす |
| UGREEN DH4300 Plus | 約216×155×155mm | 実用5U | 奥行は余裕、背が高い | 余裕あり |
| Synology DS1825+(8ベイ) | 166×343×243mm | 約4U | 幅で不可 | 幅で不可。回転しても243mmで不可 |
| UGREEN DXP8800 Plus(8ベイ) | 約188×259×366mm | 約5U | 不可 | 不可 |
出典はSynology DS925+、QNAP TS-464、UGREEN DXP4800 Plus、UGREEN DH4300 Plus、Synology DS1825+、UGREEN DXP8800 Plusです。
4ベイは、どこまで「載る」のか
Synology DS925+やQNAP TS-464は、幅が純正棚の214mm以内です。T1では奥行が約23~27mm長いため、背面がラックから出ます。オープンフレームなので設置そのものは可能ですが、本体のゴム脚が棚に残ること、重心が棚内にあること、ケーブルの重さが端子へ掛からないことを確認しなければなりません。
T2なら、これらのNAS本体は261mmの棚面に載ります。それでも残りは34~38mm。まっすぐな電源プラグや硬いLANケーブルを挿せば使い切る程度です。本体を数cm前へ出す、直角コネクタを使う、後方を完全に開放する、といった逃げが要ります。「T2なら全部きれいに内側へ隠れる」とは考えないほうがいいでしょう。
DXP4800 Plusはさらに長く、T2でも筐体だけで棚をほぼ使い切ります。10GbEを標準で持つ魅力的な4ベイですが、見た目を優先して背面ファンや端子をラックへ押し込むのは逆効果です。前へ出してでも排気と配線を守るべき機種です。
対照的に、DH4300 Plusは底面が約155×155mmと短く、T1に素直に載ります。ただし高さが約216mm、ほぼ5Uあります。奥行を取るか高さを取るか。10インチラックでは、NASの形そのものがU配分を決めます。
8ベイは、なぜ無理なのか
8ベイが載らない理由は重量ではなく形です。T2用Heavy Duty棚には公称25kgの製品がありますが、DS1825+は幅343mm。正面を横へ向けても、今度は奥行243mmが幅になり、約222mmのレールも214mmの棚も通りません。
QNAP TS-873Aは幅329.3mm、奥行279.6mm。DXP8800 Plusも幅約259mm、奥行約366mmです。側板を外し、棚から左右へはみ出させ、独自金具で固定すれば「置いた写真」は撮れるかもしれません。しかし、ドライブの抜き差し、冷却、振動、重心、保守性を失った時点で、それは搭載ではなく工作です。
したがって、既製の3.5インチHDD NASをそのまま使うなら、RackMateの自然な上限は4ベイです。8ベイが必要になった瞬間が、NASをラックの横へ置くか、19インチへ進むか、自作JBODへ潜るかの分岐点になります。
なお、RAIDはバックアップではありません。4台や8台のディスクを一つの筐体へ収めても、誤削除、ランサムウェア、筐体故障、火災からは守れません。ラックが美しくなるほど、別筐体、外付け、遠隔地のいずれかへもう一組のコピーを持つ必要があります。
MINISFORUMを載せる――小ささより、端子と電源で選ぶ

ミニPCはどれも小さいので、何でも同じように載ると思いがちです。実際には、ラック向けの差はCPU性能より、LANポート数、奥行、電源レンガ、排気方向に現れます。
| モデル | 本体寸法の目安 | ネットワーク | 平置き | 向く構成 |
|---|---|---|---|---|
| MINISFORUM M2 | 130×127×50mm | 2×2.5GbE | 2U | T1の総合本命。ルーター兼ノードにも |
| UM760 Slim | 約130×126.5×50.4mm | 1×2.5GbE | 2U | 軽量サービス、安価な計算ノード |
| UM890 Pro | 約127×130×66.6mm | 2×2.5GbE | 2U | T1のAMD本命。最大96GB、2 NVMe |
| AI X1 Pro | 195×195×47.5mm | 2×2.5GbE | 2U | T2の高密度AIノード。内蔵電源が強い |
| MS-01 | 196×189×48mm | 2×10G SFP+、2×2.5GbE | 2U | T2の仮想化・10Gクラスタ |
| MS-A2 | 196×189×48mm | 2×10G SFP+、2×2.5GbE | 2U | T2の最大演算・PCIe拡張 |
| MS-02 Ultra | 221.5×225×97mm級 | 25G/10G/2.5G | 3U以上 | 純正棚幅を超える。19インチ移行点 |
M2は、130×127mmの小さな底面、2基の2.5GbE、最大128GBメモリ、2本のNVMe、45Wのバランスモードという組み合わせがホームラック向きです。T1の奥行に約70mmを残せるため、配線も無理がありません。新しい機種なので、導入時はLinuxやハイパーバイザーで使うデバイスの認識を確認する必要がありますが、寸法と役割の釣り合いは最良です。MINISFORUM M2公式仕様
UM890 Proは少し厚いものの、2Uの88.9mmへ収まります。2基の2.5GbE、最大96GB、2本のNVMeがあり、ProxmoxやKubernetesの小型ノードとして扱いやすい構成です。AMDを選びたい、OCuLinkも試したいならこちらです。UM890 Pro公式仕様
UM760 Slimは1基の2.5GbEしかないため、単純なアプリケーションノードには向きますが、WANとLANを分ける物理ルーターには追加インターフェースが要ります。USB LANを中枢へ足すより、最初からデュアルNICのM2やUM890 Pro、または専用ゲートウェイを選ぶほうがきれいです。UM760 Slim公式仕様
AI X1 Proは、195mm四方の筐体に最大128GBメモリ、3本のM.2、2基の2.5GbEを持ち、約135Wの電源を本体へ内蔵します。高密度ラックでACアダプターの塊を一つ消せるのは、スペック表以上に大きな利点です。ただしT1では背面余白が5mmしかなく、端子を挿せません。前へはみ出させるなら動きますが、この機種を選ぶならT2が自然です。AI X1 Pro公式仕様
MS-01とMS-A2は、10インチラックをサーバーラックらしくする機種です。筐体は約196×189×48mm。T2なら背面に約64mmを残せ、2基の10G SFP+と2基の2.5GbEを使えます。MS-A2はRyzen 9 9955HXなら16コア32スレッド、最大96GB、NVMe/U.2系3本、PCIe拡張を1.78Lへ収めます。一方、約240Wの外部電源と高い発熱も持ち込みます。MS-A2公式仕様
T1でも本体だけならMS系を置けます。しかし奥行196mmに対してラックは200mm。4mmではSFP+も電源も曲がりません。「載るが使えない」の典型です。
MS-02 Ultraはさらに象徴的です。幅221.5mm級で裸のレールには近くても、純正棚の約214mmを超えます。内蔵350W、最大256GB、25GbE、複数PCIeという中身は魅力的ですが、この機種を横倒しにして吸排気を変えるより、ラックを19インチへ変えるべきです。MS-02 Ultra公式仕様
結局、何台載るのか
MINISFORUMの候補は、最薄でもゴム脚込みで1Uの44.45mmを超えます。標準棚へ平置きするなら、1台2Uが基準です。小型UM系を2台横に並べようとしても、126mm×2で棚幅を超えます。
| ラック | 計算上のPCだけ | ネットワーク込みの実用値 | 4ベイNAS込みの実用値 |
|---|---|---|---|
| T1 8U | 4台 | 3台+1Uスイッチ+1U配線/ルーター | 原則1台。NAS 4~5U+PC 2U+スイッチ |
| T2 12U | 6台 | 5台+1Uスイッチ+1U配線 | 2~3台。NAS 4~5U+PC 4~6U+スイッチ |
これはACアダプターとUPSをラック外へ出した場合です。電源レンガまで棚へ置くなら、さらに1~2Uを差し引きます。連続稼働を考えれば、compactなM2/UM系でT1は3台、T2は3~5台。AI X1 Pro、MS-01、MS-A2のような高性能機は、T2に2~3台が気持ちよく使える上限です。
縦置きというロマンもあります。厚さ50mm前後のM2やUM760を立てれば、算数上は棚幅へ4台並びます。しかし4台では隙間も固定具もほぼ残りません。カスタム金具や3Dプリントを使い、吸気間隔を取って3台を4Uへ収める程度が、攻めた現実線です。メーカーが想定しない向きの吸排気、転倒、ケーブル荷重を自分で検証できる人向けで、最初の構成には勧めません。
反則枠――MINISFORUM N5という「5ベイ全部入り」
MINISFORUMには、ミニPCとNASを一箱へまとめたN5 Air/N5 Pro AI NASがあります。公式外形は幅199×高さ202×奥行252mm級で、5基の3.5インチHDD、3基のSSD、10GbE+5GbE、最大96GBメモリを備えます。高さに約5Uを使い、幅は純正棚へ収まります。T2用261mm棚に対する奥行残は9mmしかないため、背面ケーブルは前後へ逃がす前提です。4~5kgの本体と280Wの電源アダプターも考慮します。N5 Air公式仕様
これは面白い選択です。N5を5U、2.5/10GbEスイッチを1U、配線を1U、監視ディスプレイを2Uとしても、T2にはまだ3U残る。ストレージとコンテナ基盤を一箱に集約した、極端に小さなプライベートクラウドができます。
ただし、公式ページはMinisCloud OSをベータ版・更新中と明記しています。唯一のデータ保管先にする前に、更新方針、対応ドライブ、別OSの選択肢、バックアップからの復元を確認すべきです。また、全部入りは障害ドメインも一つです。N5が止まると、計算もストレージも同時に止まります。機器を分ける構成は場所を使いますが、保守、交換、バックアップでは有利です。美しい一箱か、壊しやすい複数箱か。ここからもう設計思想の話になります。
家庭ネットワークはどこまで組めるか
10インチラックの得意分野は、実はサーバーよりネットワークです。小型スイッチ、パッチパネル、ルーター、PoE、ミニPCは奥行が浅く、短いケーブルで一つにまとめられます。
| 機器例 | ポート | 公称寸法 | T1/T2での扱い |
|---|---|---|---|
| QNAP QSW-2104-2S | 4×2.5GbE+2×10G SFP+ | 180×145×34mm | T1に余裕。ファンレス、ただしアンマネージド |
| MikroTik CRS310-8G+2S+IN | 8×2.5GbE+2×10G SFP+ | 200×206.1×44mm | 公式10インチ金具あり。T1は本体6.1mm超過、T2が快適 |
| UniFi Lite 8 PoE | 8×1GbE、うち4ポートPoE+ | 約164×100×32mm | T1にも余裕。AP・カメラ用 |
| UniFi Flex 2.5G PoE | 8×2.5GbE+10G RJ45+SFP+ | 約213×99×34mm | 純正棚の安全幅ぎりぎり。実測・別金具前提 |
| TP-Link TL-SG108-M2 | 8×2.5GbE | 226×131×35mm | 正面向きでは幅超過。横向き棚置きなら可 |
小さく静かに始めるなら、QNAP QSW-2104-2Sが面白い存在です。4台を2.5GbEでつなぎ、NASと主力PCまたは上位スイッチを10GbEへ出せます。ただしアンマネージドなので、VLANを使うネットワークの中核にはできません。
ミドル以上の中核には、MikroTik CRS310-8G+2S+INがよく合います。8ポートの2.5GbEと2ポートの10G SFP+、VLANやリンクアグリゲーションを扱えるRouterOS/SwitchOS、公式の10インチラック金具があります。奥行206.1mmなのでT1から本体だけで6.1mm出ますが、T2なら約54mmを配線へ残せます。最大34Wで小型ファンもあるため、無音ラックではありません。
PoEが必要ならUniFi Lite 8 PoEのような小型機が入ります。Wi-Fiアクセスポイントやカメラへ電源を送れますが、APそのものはラックへ閉じ込めず、電波の届く天井や壁へ置くべきです。ラックはAPを光らせる場所ではなく、APへ線と電源を送り出す場所です。
ルーターをミニPCへ任せず、専用品に分ける選択もあります。たとえばUniFi Cloud Gateway Maxは約142×128×30mm、2.5GbEを5ポート持ち、T1へ余裕で入ります。ファイアウォールを仮想化クラスタ上へ置くと、ホストの更新やクラスタ障害がそのまま家庭全体のインターネット停止になります。専用ゲートウェイ、または管理用の逃げ道を一つ残すと、ラボを壊している最中も家の回線を巻き込みません。
最新の高密度PoE機器は、10インチの限界をよく見せます。UniFi Flex 2.5G PoEの幅は約212.9mmで、図面上214mmの棚には名目上入っても、公差を含めた安全幅には余裕がありません。TP-Linkの8ポート2.5GbE機は幅226mmで、正面を向けられません。「欲しいポート数は足りるのに、あと数mm入らない」。これが19インチへ向かう最も典型的な理由です。
家庭で効くのは、全10Gではなく2.5G+10Gの背骨
家庭の全機器を10GbEにする必要はありません。PC、テレビ、ゲーム機、IoT、APの多くは1GbEまたは2.5GbEで十分です。10GbEは、NAS、動画編集PC、仮想化ノード、スイッチ間アップリンクへ絞ると、発熱、消費電力、SFP+モジュール代、配線の硬さを抑えられます。
構成は次の形が素直です。
インターネット
│
ONU / 回線終端装置(ラック外でもよい)
│
ルーター / ファイアウォール
MINISFORUM M2・UM890 Pro 等
│ 2.5GbE
管理対応2.5GbEスイッチ
├── NAS ───────── 10GbEまたは2.5GbE
├── Proxmoxノード群 ─ 2.5GbE、必要箇所だけ10GbE
├── 作業PC ─────── 2.5/10GbE
├── PoE AP ─────── SSIDごとにVLAN
└── カメラ / IoT ── 専用VLAN
VLANを使うなら、たとえば管理、信頼端末、サーバー、IoT、カメラ、ゲストを分けられます。重要なのは番号を増やすことではなく、VLAN間の通信をファイアウォールで必要最小限にすることです。IoTから管理画面へ入れない、ゲストからNASを見せない、カメラからインターネットへの通信を制限する。ラックがネットワークを安全にするのではなく、見通せる構成が正しいルールを作りやすくします。
なお、2本のLANをLACPで束ねても、一つのファイル転送が自動的に2倍速になるとは限りません。リンクアグリゲーションが効くのは、複数クライアントの合計帯域や回線冗長性です。一台のPCと一台のNASの一通信を速くしたいなら、最初からその経路を10GbEにするほうが確実です。
T2をネットワーク特化で使い切るなら
NASをラックの横へ置き、T2をネットワークと計算だけに振ると、さらに密度を上げられます。
U12 0.5Uパッチパネル+0.5Uケーブル管理
U10-11 16ポート10GbE級スイッチ
U9 PoEスイッチ
U7-8 専用ファイアウォール / MS-01
U5-6 計算ノード1
U3-4 計算ノード2
U1-2 計算ノード3
QNAP QSW-M3216R-8S8Tは、8基の10G SFP+と8基のmulti-gig 10GBASE-Tを約207×199.5×43.3mmへ収める管理対応スイッチです。本体だけならT2に入りますが、棚の幅余裕は合計約5mm、高さも1Uに約1mmしか残りません。棚、脚、L字電源、製造公差を含めて2Uを与え、購入前に実測する前提です。
この構成なら、3ノード、専用ファイアウォール、16ポートの10G、PoE、パッチパネルまで一つのT2へ入ります。その代わり、NAS、UPS、大きな電源アダプターは外です。「ラックに何を入れるか」は、性能ではなく障害時に一緒に止まってよいものを決める作業になります。
スモール、ミドル、ラージ――ラックが開く三つの未来
ここからは、何を動かせるかを具体的に描きます。U割りは下段から上段へ読みます。どの構成も、UPSと大きなACアダプターはラック外へ置く前提です。
スモール: T1 8U――生活を支える一台
U8 2.5GbEスイッチ
U6-7 MINISFORUM M2 または UM890 Pro
U5 排熱・配線のための空き
U1-4 Synology / QNAP 4ベイNAS
この構成で、ファイル共有、PCとスマートフォンのバックアップ、写真管理、Jellyfin、Home Assistant、AdGuard Home、小さなGit、監視、数台の軽いVMを一つの場所へまとめられます。M2やUM890をProxmoxホストにし、NASはデータへ専念させる。障害時の役割が分かりやすく、最初のホームラボとして美しい構成です。
T1の奥行ではNASの背面が出ます。それを欠点とだけ見る必要はありません。オープンラックの後ろへケーブルを逃がし、前から見える面を整える。T1は「全部を隠す箱」ではなく、「散らばっていた役割を一つの場所へ集める骨格」です。
NASを置かなければ、M2/UM系を3台、スイッチとルーターまたは配線に2Uという小型クラスタもできます。3台あれば、ProxmoxやKubernetesでクォーラムを組み、1台を止めて更新する練習が始められます。家庭の役に立つかどうかはさておき、ここから急にロマンが濃くなります。
ミドル: T2 12U――実用と表示の両立
U11-12 7~9インチの監視ディスプレイ
U10 2.5GbE+10GbEスイッチ
U8-9 MINISFORUM ノード2
U6-7 MINISFORUM ノード1
U5 排熱・ケーブルのための空き
U1-4 4ベイNAS
T2になると、実用品だけでなく「見せる2U」を確保できます。DeskPiにはT1/T2へ付く7.84インチ2Uディスプレイがあり、Grafana、Proxmox、NAS容量、室温、消費電力を常時表示できます。
監視画面はなくてもシステムは動きます。それでも、暗い部屋でリンクLEDとグラフが静かに動いている景色には、数値化できない価値があります。ホームラボは家電であると同時に模型でもあり、運用基盤であると同時に自分で理解できる機械です。
2台のノードは、片方を常用、片方を検証やバックアップ先にできます。あるいは3台目を入れ、ディスプレイを諦めてクラスタにする。2Uの画面は、ミニPC一台分の性能と引き換えです。その無駄を選べること自体が、趣味の贅沢です。
ラージ: T2 12U――4ベイNAS+3ノードの小型データセンター
U12 MikroTik CRS310等の中核スイッチ
U10-11 MS-01 / MS-A2 ノード3
U8-9 MS-01 / MS-A2 ノード2
U6-7 MS-01 / MS-A2 ノード1
U1-5 4ベイNAS+最低限の排熱余白
これはT2の実用最大に近い構成です。MS-A2をRyzen 9 9955HX、96GBで3台そろえれば、合計48コア96スレッド、最大288GBメモリ、NVMe/U.2系9スロット、各ノードに2本の10G SFP+と2本の2.5GbEを持てます。
このU割りでは、回線事業者のルーターまたは専用ゲートウェイをラック外へ置きます。一台のノードへファイアウォールを仮想化することもできますが、そのノードの更新が家庭回線の停止になるため、最大構成では外置きゲートウェイのほうが運用しやすい設計です。
ここまで来ると、仮想マシン、コンテナ、CI、監視、ホームオートメーション、メディア処理、検証用の分散ストレージ、小~中規模のローカルAI推論を同時に抱えられます。家庭用として性能が足りない場面より、何を常時動かす理由があるのかを考える時間のほうが長くなるでしょう。
CRS310の10Gポートは2本なので、素直な構成では1本をNAS、もう1本を主力PCまたは上位回線へ使い、3ノードは2.5GbEへ接続します。ノード間の10Gを本気で使うなら、4ポートSFP+の小型スイッチを追加するか、MS-A2同士をDACで直結する上級構成へ進みます。直結メッシュは美しい一方、経路、障害、保守の理解が必要です。配線本数が増えた瞬間、中央スイッチの価値を身をもって学べます。
もう一つの最大案は、AI X1 Proを3台にする構成です。合計36コア72スレッド、最大384GBメモリ、9本のM.2、電源レンガなし。10GbEはありませんが、ローカルAI、開発、仮想化を2.5GbEで束ねるなら、物理的にはこちらのほうが美しく収まります。
「最大」は、常用の推奨ではありません。MS-A2の電源アダプターは1台約240W定格なので、3台で720W分。5台を詰めればアダプター定格だけで1200Wです。実消費は負荷によって下がりますが、スイッチ、NAS、HDD、ファンを加えれば、同じ家庭回路へ気軽に足してよい機械ではなくなります。壁コンセントで実測し、電源タップ、UPS、分岐回路の定格を確認する領域です。
小さいラックほど、電源と熱は隠せない
RackMateはオープンフレームなので、密閉キャビネットより空気は逃げます。しかし「開いているから冷える」と「吸排気が成立している」は別の話です。
NASは前から吸い、後ろへ排気する機種が多く、背面をケーブルの壁で塞げません。ミニPCは底面、側面、背面を組み合わせて吸排気します。棚板の穴があっても、ゴム脚を外したり隣の筐体を密着させたりすれば、設計された流路を壊します。2Uを与えるのは、高さが足りないからだけでなく、空気のためでもあります。
音の主役も変わります。小さな構成ではNASのHDDシーク音が最も目立ち、10GbE化すると小径ファンやRJ45の10Gモジュールが熱源になります。静音を優先するなら、ファンレススイッチ、SFP+ DAC、2.5GbE中心の構成が有利です。性能表には載らない「寝室で耐えられるか」が、家庭では最も重要なベンチマークになることがあります。
電源も、空きUを食べないふりをします。120Wや240WのACアダプターは、本体より大きく感じることさえあります。ラック内へ重ねれば熱がこもり、外へ出せば床に再び塊ができます。ACアダプターを置く専用トレー、短いACケーブル、ラベル、面ファスナーまで含めて設計する必要があります。
DeskPiにはDC PDUもありますが、すべての機器へ同じ電圧を配れる魔法の箱ではありません。DC PDU Lite 7-CHは0.5Uで、入力最大24V、合計8A、各チャンネル最大3A、電圧変換なしです。12Vを入れれば全出力が12Vで、5V、12V、19Vを同時には作れません。19V/12.63A級のMS-A2は、一台だけでもこのPDUの電流上限を超えます。MINISFORUMは19V、ネットワーク機器は12V、24V、48V、PoEなどが混在するため、電圧、極性、コネクタ、最大電流が一致しない機器をまとめてはいけません。専用ACアダプターを残す判断も、立派な安全設計です。
UPSはラック外のタワー型が現実的です。たとえば家庭でも使いやすい小型UPSの一つであるOMRON BY50Sでも奥行285mmあり、T2より25mm長いうえにプラグの空間が要ります。容量、奥行、交換バッテリー、出力波形、USBやネットワーク経由のシャットダウン連携まで考えると、ラック内の貴重なUを使わず、床や隣の棚へ置くほうが選択肢は広がります。UPSは長時間運転するためではなく、瞬停を越え、NASと仮想基盤を安全に落とす時間を買う装置です。
最後に荷重。Heavy Duty棚の25kgという数字は棚単体の公称値で、組み上げたラック全体、机、重心、地震時の安全を保証する数字ではありません。NASは必ず下段へ置き、ゴム脚を残し、ラック自体の転倒や滑りも止める。持ち手があるからといって、HDDが回転中のラックを運ぶべきではありません。
ロマンを完成させるのは、性能ではなく運用である

ラックを買った直後は、機器を埋めたくなります。けれど、本当にシステムらしく見せるものは、CPUの数ではありません。
短いCat6Aケーブル。両端が同じ番号のラベル。用途の分かるVLAN名。設定のバックアップ。温度、ディスク状態、UPS残量、回線疎通を一枚にしたダッシュボード。月に一度、バックアップから実際に一つ復元する習慣。故障した一台を止めても、家族の写真やHome Assistantが消えない構成。
ラックは、散らかった機械を圧縮する装置です。しかし圧縮しただけでは、複雑さは消えません。見える場所へ並べ直された複雑さに、名前を付け、境界を作り、壊し方と戻し方を決めて初めて、ホームラボは家庭インフラになります。
7.84インチの画面、半透明の側板、整列したパッチパネル、暗闇のリンクLEDは、その運用が見えるようになった結果です。だから格好いい。単なるイルミネーションではなく、自分のシステムが生きていることを目で確認できるから、ロマンになります。
そして19インチの沼が口を開ける
T2を使い切った人が、次に検索する言葉はだいたい決まっています。
「10インチ 8ベイ NAS」
「10インチ 10G 8ポート」
「短奥行 1U UPS」
「静音 ラックサーバー」
最初は、あと数mmを解決するために3Dプリンターを見ます。専用ブラケットを作り、0.5Uパネルを組み、右角コネクタを探し、既製品にない10インチ用ドライブケージを設計する。これは楽しい沼です。10インチの可愛さを守るために、自分で規格の隙間を埋める工作の世界です。
しかし8ベイになると、19インチの説得力が急に増します。たとえばSynology RackStation RS1221+は、8基の3.5インチドライブを2U、幅482mm、奥行306.6mmへ収めます。10インチではどう向けても入らなかった8ベイが、19インチではたった2Uです。QNAPにも奥行約297mm級の8ベイ・ショートデプスNASがあります。
ここで19インチの12Uまたは18U、奥行450~600mm程度のラックが候補に入ります。NAS本体が奥行300mmでも、コネクタ、レール、電源、排気には追加の空間が必要です。ラックの外寸ではなく、機器奥行+レール+配線で選ばなければなりません。
19インチへ行くと、急に世界が標準化されます。24ポートのパッチパネル、16/24ポートPoEスイッチ、1Uルーター、2Uの8ベイNAS、ラックマウントUPS、引き出し、KVM、PDU。中古の業務用サーバーも視界に入ります。空いていた12Uはすぐに埋まり、18Uへすればよかったと思い、次は24Uを測り始めます。
12Uのショートデプスなら、1Uパッチパネル、1Uケーブル管理、1Uの2.5GbE PoE/10GbEスイッチ、1Uゲートウェイ、2Uの8ベイRS1221+、2Uの浅い計算ノード、2UのラックUPSを入れても2U残ります。10インチで上下左右にはみ出していた機器が、正面を向き、ねじ穴を合わせ、役割ごとに並びます。
18Uになると、バックアップ用NAS、KVM、センサー、予備スイッチを足しても成長余地が残ります。ここで「本番」と「検証」、「主データ」と「バックアップ」を別筐体へ分けられるようになります。一台の故障からは強くなりますが、同じラック、同じUPS、同じ部屋はまだ一つの障害ドメインです。
24Uのフルデプスへ進むと、GPUサーバーや一般的な業務用2Uサーバーが候補になります。しかし、19インチは幅を解決するだけで、奥行を解決しません。ショートデプスNASは約300mmでも、たとえばDell PowerEdge R760は電源ハンドルまで約736mmあります。レールと背面ケーブルを含めれば、800~1100mm級のラック、搬入経路、床、騒音、換気まで検討対象です。小さな棚だったものが、空の状態でも一人では気軽に動かせない設備へ変わります。
そこから先は、性能の沼ではなく設備の沼です。
奥行800mmのサーバーが扉に当たる。レールがラックに合わない。1Uサーバーの小径ファンが掃除機のように鳴る。PoE予算が200Wを超える。UPSのバッテリーが数年で交換時期を迎える。夏の部屋が暖まり、専用回路と換気を考える。冗長電源を買ったのに、壁のコンセントは一系統しかないことに気づく。
やがて、サーバーを増やすよりサービスを減らすほうが難しいと知ります。クラスタを組むより、更新手順と復旧手順を保つほうが大変です。8ベイNASを買ったのに、別の8ベイへバックアップしたくなります。機器を冗長化すると、今度は監視と通知を冗長化したくなります。
沼の終点にあるのは、巨大なラックではありません。「このサービスは本当に24時間必要か」「どこまで自分で面倒を見るか」「壊れた夜に誰が直すか」という運用の判断です。
そして不思議なことに、19インチまで行った人ほど、もう一度10インチラックを欲しがります。大きなラックはストレージと中核ネットワークへ。小さなRackMateは机の横で、検証、IoT、持ち出せるエッジ環境へ。最初のラックは卒業されるのではなく、役割を得て戻ってきます。
どの未来を買うか
T1を選ぶべきなのは、置き場所が厳しく、4ベイNAS一台とMINISFORUM一台、またはNASなしの3ノードを美しくまとめたい人です。NASの背面が出ることを受け入れ、M2やUM890 Proのような奥行130mm級を選べば、8Uでも家庭の主要サービスを十分に抱えられます。
T2を選ぶべきなのは、これから育てる人です。4ベイNAS、2~3台のミニPC、2.5/10GbEスイッチ、あるいは2Uの監視画面まで、一つの小さな塔にできます。AI X1 ProやMS-A2のような195mm級の機器も、配線を含めて現実的に使えます。8Uと12Uの差は4Uですが、その4Uが「機器の置き場」を「システム」へ変えます。
最初から19インチへ行くべきなのは、8ベイNAS、高密度2.5GbE PoE、16/24ポートPoE、ラックUPS、GPU、業務用サーバーのどれかが必須の人です。10インチへ無理に収める工作は楽しいものの、目的が運用なら、標準機器が正面を向いて入ることの価値は大きいです。
GeeekPiのページで見た小さなラックは、単なる収納用品ではありません。散らかった箱を、自分で理解できるインフラへ変える最初の境界線です。
T1なら、削る楽しさがある。T2なら、育てる余地がある。19インチなら、終わらない。
ラックを一台買うことで開ける未来とは、機械を増やす未来ではなく、自分のデータ、ネットワーク、サービスがどう生きているかを、自分の目で見て、自分の手で決められる未来です。
そして空いている1Uは、たぶん翌月にはもう空いていません。
主な仕様出典
- GeeekPi Server Racks & Raspberry Pi Accessories
- DeskPi RackMate T1公式Wiki
- DeskPi RackMate T1/T2公式機械図面リポジトリ
- DeskPi T1用1U棚図面
- DeskPi T2用1U棚図面
- MINISFORUM公式製品情報
- MikroTik CRS310-8G+2S+IN公式仕様
- Synology DS925+公式仕様
- Synology DS1825+データシート
- QNAP Short-depth NAS Solution
この検証を回している環境
この検証は、自宅の常設ラボ(使い捨てVM/LXCを回す母艦+GPU+VLAN分離ネットワーク)で動かしています。使っている機材と選定理由、全体構成は1本にまとめています。
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