新しいNASの候補機種はおおむね絞れたのに、最後の一歩でつまずく箇所があります。「4ベイで安く済ませるか、6ベイ以上にして余裕を持たせるか」という判断です。製品選定の判断軸そのものは、姉妹記事『新しいNASを選ぶ基準 ― 製品名より先に決めておきたい7つの判断軸』で広く整理しました。本記事はその続編として、判断軸のうち「容量」「ベイ数」「役割分担」に絞って掘り下げます。
ここで迷う理由ははっきりしています。ベイ数はカタログ上は「箱の大きさ」に見えますが、実際に効いてくるのは、RAIDを組んだ後に残る実効容量、ディスクが1本壊れたときの余裕、そして数年後にディスクを足せるかどうかです。容量単価だけで4ベイを選ぶと、RAID方式とバックアップ領域、将来の増設で窮屈になる場合があります。逆に8ベイを選べば常に正解、というわけでもありません。過剰投資と容量不足のどちらも避けるために、ベイ数を3つの観点に分解していきます。
ベイ数は「箱の大きさ」ではなく実効容量・耐障害性・拡張性
NASのベイ数を選ぶとき、見るべきは次の3点です。
- 実効容量: RAIDを組んだ後、実際にデータを置ける容量
- 耐障害性: ディスクが何本まで同時に壊れても運用を続けられるか
- 拡張性: 後からディスクを足したり、容量の大きいディスクに入れ替えたりできる余地
スペック表の「総ベイ数」や「最大搭載容量」は、このうち拡張性の上限を示すだけで、実際に使える容量や故障時の余裕までは語りません。ベイ数選びの失敗の多くは、この3点を「総容量」一語にまとめてしまうところから始まります。
RAIDを組むと実際に使える容量はどれくらい減るのか
RAIDは複数のディスクを束ね、一部のディスクを冗長(パリティ)に回すことで、ディスク故障に耐える仕組みです。冗長に回した分だけ、見かけの合計容量より実効容量は減ります。代表的な構成で、同じ容量のディスクを使った場合の目安は次のとおりです。
- RAID 5: ディスク1本分を冗長に使う。実効容量は「(本数−1)×1本の容量」
- RAID 6: ディスク2本分を冗長に使う。実効容量は「(本数−2)×1本の容量」
仮に8TBのディスクで揃えた場合、おおよそ次のようになります。
| 構成 | 搭載ディスク | 冗長 | 実効容量の目安 | 同時故障の耐性 |
|---|---|---|---|---|
| 4ベイ RAID 5相当 | 8TB×4 | 1本 | 約24TB | 1本まで |
| 4ベイ RAID 6相当 | 8TB×4 | 2本 | 約16TB | 2本まで |
| 6ベイ RAID 5相当 | 8TB×6 | 1本 | 約40TB | 1本まで |
| 6ベイ RAID 6相当 | 8TB×6 | 2本 | 約32TB | 2本まで |
表から読み取れるのは、冗長の本数が増えるほど実効容量は減るが、同時故障への耐性は上がるという当たり前の関係です。重要なのは「冗長の本数」が容量全体に占める割合です。4ベイでRAID 6を選ぶと、4本中2本が冗長に回るため実効容量は半分まで落ちます。一方6ベイなら、同じRAID 6でも冗長は6本中2本で済み、実効容量を保ちながら2本の同時故障に耐えられます。RAID 6を本気で使いたいなら、ベイ数に余裕があるほど割が良くなる、と言い換えられます。
なお、SynologyのSHRのように、容量の異なるディスクを混在させても無駄になりにくい仕組みもあります。手元のディスクを少しずつ足していきたい場合は、こうした柔軟な構成が選択肢になります。実際の数値は、メーカーが公開しているRAID容量計算ツールで、自分の手持ちディスク構成を入れて確認するのが確実です。
RAID 5とRAID 6は家庭用途で何が違うのか
数字の上では「同時に壊れても耐えられる本数が1本か2本か」の違いですが、家庭用途で実際に効いてくるのはリビルド(再構築)中のリスクです。
RAIDはディスクが1本壊れても運用を続けられますが、壊れたディスクを交換した後、データを再構築する処理が走ります。このリビルド中は全ディスクに長時間の負荷がかかり、しかも残りのディスクは同じ時期に買った同型番・同年代であることが多いため、2本目が連鎖的に壊れるリスクが相対的に高まります。
RAID 5はこのリビルド中にもう1本壊れると、データを失います。RAID 6は2本分の冗長があるため、リビルド中の二重故障にも一段の余裕があります。ディスクの大容量化でリビルドにかかる時間が伸びていることもあり、容量の大きいディスクを多数束ねるほど、RAID 6の安心感は実利として効いてきます。家庭用途でも、「停止やデータ喪失をできるだけ避けたい」「ディスクを買い直す手間を減らしたい」なら、RAID 6を検討する価値があります。
ホットスペアは家庭NASで必須なのか
ホットスペアは、普段は使わない予備ディスクをあらかじめ組み込んでおき、1本壊れた瞬間に自動でリビルドを始める仕組みです。交換に駆けつけられない環境では、復旧開始までの時間を短くできる利点があります。
ただし家庭NASでは、必須とは言い切れません。ホットスペアに割く1本を、最初からRAID 6の冗長に回したほうが、二重故障への耐性という意味では効率が良い場合が多いからです。手元にすぐ交換できる予備ディスクがあり、数日のうちに自分で対応できるなら、家庭用途ではホットスペアより「RAID 6+手元の予備ディスク1本」のほうが現実的なことが多いと考えられます。常時無人で止められない用途や、ベイ数に十分な余裕がある場合に検討する、という位置づけが妥当です。
4ベイで避けたい容量計画と、6ベイ以上を選ぶ条件
ここまでを、購入前に避けたい計画と、ベイ数を増やす合理的な条件に整理します。
4ベイで避けたい容量計画は次のとおりです。
- 購入時点で実効容量の8〜9割を使い切る前提で買う(増設余地がほぼ残らない)
- 4ベイ全部をいきなり埋め、後から1本足す余地を残さない
- RAID 6を選んで実効容量が半分になることを、購入後に初めて知る
6ベイ以上を選ぶ合理的な条件は次のとおりです。
- データ増加ペースが速く、2〜3年で4ベイの実効容量を超えそう
- RAID 6で二重故障に備えつつ、実効容量も確保したい
- 写真・動画の長期保管など、後からディスクを足して伸ばしていきたい
- 軽い仮想化やコンテナで、容量と同時故障耐性の両方に余裕が欲しい
逆に、当面のデータ量が小さく増加も緩やかで、用途がPCバックアップと写真保管中心なら、4ベイ RAID 5相当でも十分なことが多いです。8ベイは設置スペース・消費電力・初期費用が一段上がるため、増設計画が具体的に見えてから選ぶほうが、過剰投資を避けられます。
RAIDを組んでも、別のバックアップが必要な理由
最後に、ベイ数とRAIDの議論で最も誤解されやすい点を確認します。RAIDはディスクの物理故障に対する可用性の仕組みであって、バックアップではありません。
RAIDは次のような事故を防げません。
- 誤ってファイルを削除・上書きしてしまった
- ランサムウェアや不具合でデータが壊れた
- 落雷・水濡れ・盗難など、NAS本体ごと失われた
これらはRAID上の全ディスクに同じように反映されるか、本体ごと消えるため、冗長を何本積んでも守れません。ベイ数を増やして耐障害性を上げることと、別の場所へバックアップを取ることは、役割の異なる別々の対策です。ベイ数の予算を考えるときは、外付けディスクやクラウドへのバックアップ分も合わせて設計しておくと、後から慌てずに済みます。
結論: あなたはどのベイ数を選ぶべきか
データ増加ペースと、止められる時間の長さ(許容停止時間)で考えると、目安は次のように整理できます。
- データ増加が緩やかで、自分で数日内に対応できる: 4ベイ RAID 5相当で十分
- データを失いたくなく、リビルド中の不安を減らしたい: 4ベイ RAID 6、ただし実効容量が半分になる点に注意
- 容量と二重故障耐性を両立し、後から伸ばしたい: 6ベイ RAID 6相当が割が良い
- 当面の増設計画が具体化していない: 8ベイは保留し、ベイ数より先にバックアップ設計を固める
ベイ数は「大きいほど安心」でも「小さいほど賢い」でもなく、自分のデータ増加と許容停止時間に対する設計の問題です。製品名を比べる前に、実効容量・故障時の余裕・将来の増設余地で一度分解しておくと、購入後に容量計画が窮屈になる失敗を減らせます。
この検証を回している環境
この検証は、自宅の常設ラボ(使い捨てVM/LXCを回す母艦+GPU+VLAN分離ネットワーク)で動かしています。使っている機材と選定理由、全体構成は1本にまとめています。
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