家庭ラボのUPS選び:停止順序から逆算して容量を決める

家庭ラボのUPS選びは、容量より先に「停止順序」を決める のためのシンプルなアイキャッチ画像

UPSを買う予定はあるものの、どの機器を何分動かし、いつ自動で止めるかが曖昧なまま——という状態の方に向けた記事です。停電そのものより、停電中に書き込み中のデータを壊すこと、ネットワークだけが先に落ちて停止通知が届かないこと、復電後にサービスの起動順が崩れて原因確認に時間を取られること。怖いのはたいていこの三つです。

ここで先に結論を置きます。家庭ラボのUPSは、容量(何分もたせるか)より先に、停電時に何を先に止め、何を最後まで残すかという停止順序から決めたほうが事故が減ります。容量はその順序を実現するための数字であって、出発点ではありません。

目次

UPSは「何分もたせるか」より「何を先に止めるか」で選ぶ

UPSの保持時間(ランタイム)は、つないでいる負荷(W)に依存します。負荷が大きいほど短くなり、VAやWの定格値だけでは実際の保持時間は決まりません。APCのUPS Selectorのような選定ツールも、接続機器や消費電力を入力して初めて候補を算出します。つまり「○分もつUPS」という言い方は、何をつなぐかを決めてからでないと成立しません。

そして家庭ラボで実害になりやすいのは、ランタイムの短さそのものより、止まり方です。NASが書き込み中に電源を失えばボリュームを傷めます。ネットワーク機器が先に落ちれば、NASやミニPCに「もう止めていい」という通知が届かず、自動シャットダウンが空振りします。だからまず、止める順番と残す経路を決めるのが先です。

容量は VA と W の両方で見て、負荷で読む

UPSの容量定格は、VA(皮相電力)とW(有効電力)の両方で示されます。両者は力率によって異なるため、機器の実消費はWで評価するのが安全です。VAの数字だけが大きいUPSを見ても、実際に支えられる負荷はWで頭打ちになります。

手順としては、(1)UPSにつなぐ機器の消費電力(W)を合計し、(2)その負荷で何分保持してほしいかを決め、(3)その条件を満たすUPSをメーカーのランタイム表や選定ツールで探す、という順になります。特定機種が「NAS+ルーター+スイッチを何分もつか」は負荷構成しだいで変わるため、本記事では数字を断定しません。後半の判断表は、読者がご自分の環境のWとメーカーのランタイム表で埋める形にしています。

どの機器をUPSにつなぐか

APC UPS 2台の実機。上が RS 550S(BR550S-JP・ライン電圧99Vと負荷を表示中)、下が Smart-UPS 1000(SMT1000J・バッテリ100%表示)
実機のUPS 2台体制。ネットワーク機器用の RS 550S(上)と、NAS・ストレージ系用の SMT1000J(下)

比較の軸は、必要ランタイム、安全に停止すべき機器、停電中も残すべき通信経路、自動シャットダウン対応、保守性です。家庭ラボでよく取る構成を並べます。

  • NASだけをUPSに接続する構成。データ保護は最優先で守れますが、ルーターやスイッチが先に落ちると、NASへの停止指示やネットワーク経由の停止通知が届きません。USB直結でNAS自身が安全に止まる設計なら成立しますが、「停電をネットワーク越しに知らせる」役割は持てません。
  • NASとネットワーク機器(ルーター・スイッチ)をUPSに接続する構成。停電中も通信経路が残るため、UPSの状態を他機器へ伝える、または管理画面へ届ける土台になります。家庭ラボの停止制御を自動化するなら、ここが現実的な下限になりやすい構成です。
  • ミニPCや仮想化ホストまでUPSに接続する構成。守れる範囲は広がりますが負荷(W)が増え、同じUPSでのランタイムは短くなります。仮想化ホストは安全に止めるのに時間がかかる場合があり、保持時間と停止所要時間のバランスを意識する必要があります。
  • 手動停止前提の運用。設備は最小で済みますが、不在時の停電に対応できません。停電が短時間で済む前提に賭ける運用です。
  • NUTなどを使った自動停止前提の運用。設定の手間はかかりますが、不在時でも順序立てて止められます。下の自動シャットダウンの節で扱います。

自動シャットダウンは「役割」と「しきい値」で設計する

複数の機器を1台のUPSにぶら下げるとき、停止のタイミングを役割で分けられるのがNUT(Network UPS Tools)です。NUTは機器ごとのドライバ層、upsd(サーバ)、upsmon(監視クライアント)という層構造を採ります。

upsmonにはprimary(旧master)とsecondary(旧slave)の役割があり、primaryがUPSを直接管理して全体の停止を統括し、secondaryは自分自身のシステムのみを停止します。これにより、1台のUPSに複数システムをつないでも「先に止めてよいもの」と「最後まで統括するもの」を分けられます。さらにNUTは、UPSの状態(オンバッテリー/低バッテリーなどのフラグ)に応じて通知やシャットダウンを発火するよう設定でき、「いつ自動停止を始めるか」をしきい値で制御できます。

NAS側では、Synology DSMがUSB接続またはSNMP経由のネットワークUPSに対応し、管理画面(ハードウェアと電源 → UPS)から連携を設定できます。Synology NASはネットワークUPSサーバとして動作させ、同じUPSの状態を他のネットワークUPSクライアントと共有して停止判断に使うこともできます。停止条件としては、UPSがバッテリー駆動に移ってから一定時間経過後、またはUPSが低バッテリー状態になった時点でNASをセーフモードへ移行させる設定があり、セーフモードではサービスを停止しボリュームをアンマウントします。

ここで確認すべきことは三つです。第一に、停止指示が届く通信経路(USB直結かネットワークか)が停電中も生きているか。第二に、しきい値(何分経過、または低バッテリーで止めるか)が、機器を安全に止めきれる時間を確保しているか。第三に、NUTのsecondaryの停止が始まる正確な順序や遅延、Synologyのセーフモード移行の時間オプションや表記は設定値とバージョンで差が出るため、実際に投入する値は各公式ドキュメントの該当章で突き合わせること。本記事では細かな数値は断定しません。

復電後にサービスが戻らない事故を減らす

復電後の起動順については、今回の出典だけでは単一の公開ドキュメントで裏付けにくいため、運用設計上の考え方として示します。停止順序を「止める順」で設計したら、復帰は基本的にその逆順——通信の土台(ルーター・スイッチ)、ストレージ(NAS)、その上で動くミニPCや仮想化ホスト、最後にアプリケーション——という依存関係を意識して戻すと、起動順の崩れによる原因確認の時間を減らせます。

機器のBIOS/UEFIにあるAC復電時の自動電源オン設定、機器間の起動依存、(使うなら)PDUによる順次投入などは、それぞれ各機器の公式ドキュメントで挙動を確認してから前提に組み込んでください。「電気が戻れば全部一斉に立ち上がる」を期待しないことが、ここでの要点です。

判断表(自環境の数値で埋める)

以下は、買う前に一枚で決めるための表です。ランタイムや機種固有値は環境依存のため、空欄はご自分のW合計とメーカーのランタイム表で埋めてください。

機器 UPSにつなぐか 停止の優先度 自動停止の役割 復電後の起動位置 確認する数値
ルーター/スイッチ つなぐ(通信経路を残す) 最後まで残す 通知経路を維持 最初に起動 消費W
NAS つなぐ(データ保護) 早めに安全停止 primary/サーバ or USB直結 ネットワークの次 消費W・安全停止に必要な時間
ミニPC/仮想化ホスト 負荷とランタイム次第 先に止める候補 secondary/クライアント NASの後 消費W・停止所要時間
UPS本体 しきい値(経過時間/低バッテリー) VA/W定格・実負荷でのランタイム

買う/まだ買わない条件

買ってよい目安は、(1)UPSにつなぐ機器のW合計を出し、(2)通信経路(ルーター・スイッチ)を停電中も残す構成を決め、(3)NASの安全停止経路(USBかネットワーク、NUTかNASの連携機能)を決め、(4)止める順と復電後の戻し方を書き出せたときです。ここまで決まっていれば、容量は選定ツールやランタイム表で機械的に絞れます。

まだ買わないほうがよいのは、つなぐ機器が未確定でW合計が出せないとき、通信経路を残すかどうかを決めていないとき、停止を完全手動でよいと割り切れていないときです。容量の大きいUPSを先に買っても、止め方が決まっていなければ「NASは守れたがネットワークが先に落ちた」「自動で止まらず手動対応になった」が再発します。先に紙の上で停止順序を確定させるほうが、結果的に安く確実です。

UPSはバッテリーが消耗品である点も忘れずに。交換手順とバッテリーの入手性(保守性)も、選定時の評価軸に入れておくと長く運用できます。

この検証を回している環境

この検証は、自宅の常設ラボ(使い捨てVM/LXCを回す母艦+GPU+VLAN分離ネットワーク)で動かしています。使っている機材と選定理由、全体構成は1本にまとめています。

ラボ構成のまとめを見る →
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